2012年7月11日水曜日

身体の中の須弥山世界


万有世界の中心車軸をブラフマンと見立て、転変輪廻する現象界を回転する車輪に見立てる。

実は仏教的な文脈の中にも、この様な輪軸の思想と造形は脈々と受け継がれている。
それが、須弥山(メール山)の世界観だ。

倶舎論によれば、大宇宙であるところの虚空にぽっかりと気体でできた風輪が、その大きさは文字通り宇宙大の広がりを持って浮かんでいる。その上に太陽の直径の六倍ほど、800Kmを超える直径を持つ液体の水輪が浮かび、その上に同じ直径で固体の金輪が浮かんでいる。金輪の上は塩水の海によって満たされ、その周囲を囲むように鉄囲山が取り巻いている。

広大な海の中心には須弥山が聳え、その周りは七金山によって環状に囲まれている。その周囲にはやや離れて四つの島大陸があり、南側にある閻浮提(えんぶだい)が私たちの住む世界だ。島の底は海中で金輪の表層とつながって、その金輪の地下深くに地獄界がある。須弥山には帝釈天(インドラ)や梵天(ブラフマー)を始めとした神々が住み、その中腹を太陽(日天)と月(月天)が回っているとい

須弥山は車軸であり、現象世界は車輪である

上の図版はネット上で見つけた大まかな概念図に過ぎないが、仏教の姉妹宗教とも言えるジャイナ教の寺院に実在する須弥山(メール山)モデルを見つけたので、下に紹介しよう。

ジャイナ教寺院のメール山(スメール)

これらヴィジュアル的に見れば明らかな様に、この須弥山の思想は、シヴァ・リンガムと同じように、疑いもなくヴェーダやウパニシャッドに見られる輪軸の世界観の延長線上にある事が分かるだろう。

それはつまり、神や仏が住まう車軸としての須弥山(万有の支柱ブラフマン)とその周りに展開する車輪としての現象世界(プラクリティ)、という構図だ。

詳細は
を参照。

そして実は、ここが面白いところなのだが、インド思想には、現象する世界(大宇宙)をマクロ・コスモスと捉え、私たちの身体を小宇宙ミクロ・コスモスと捉え、両者を重ね合わせてアナロジーで考察すると言う思考の枠組みが存在する。

これは個我の本質であるアートマンが実はブラフマンと同一である、というウパニシャッドの思想とも深い関わりを持っている。

それが、ヨーガ・チャクラの世界観だ。

ヨーガの身体観では、私たちの身体に重なるようにして目に見えない霊的微細身が存在するという。そこにはプラーナが流れる大小のナディ(脈管)が想定され、背骨と重なる中心的な脈管であるスシュムナー管に貫かれる形で、会陰部から頭頂部にかけて7つの霊的センター『チャクラ』が存在している。

ヨーガ・チャクラは体内の車輪だ

そして、このスシュムナー管の周りをらせん状にイダーとピンガラー管が取り巻いており、このイダーは月の回路を、ピンガラーは太陽の回路を意味し、中央のスシュムナー管は須弥山に擬せられるという。これは体内に須弥山世界の構図がそのまま再現されている事を意味する。

万有の支柱=ブラフマンがマクロ・コスモスの車軸であるならば、身体の中心にあってそれを支える背骨もまたミクロ・コスモスの車軸に他ならない。

世間に流布しているヨーガ・チャクラ図を見ると、各チャクラの円盤面が正面を向いて描かれる事がほとんどだ。そのため私たちはつい錯覚してしまうのだが、実は本来のチャクラは背骨(スシュムナー管)を車軸に見立てた時に車輪となるように、地面に対して水平に存在している(それはリンガに対するヨーニの関係と同じだ)。

スシュムナー管に貫かれたアナハタ・チャクラ
その関係性は体内の車軸と車輪を表している


だがヴィジュアル的に見て、盤面を正面に向けた方が美しいために便宜的にそう描かれるのだ。これは上のアナハタ・チャクラ図を良く見れば、ひと目で確認できる事実だろう。

詳細は
を参照。

ヨーガ・チャクラはタントラ・シャクティの思想に根ざし、シヴァ・リンガムの造形・思想とも関わりが深いが、これらは時系列的に見ればすべてシッダールタの時代から遥か後世に顕在化したものだ。

しかし、基本的な身体観である『身体の中には車軸と車輪が存在し、それはブラフマン輪軸世界観のミニチュア版である』という思想の原型は、すでにシッダールタの時代には確立しており、それは医学・解剖学的な裏付けを元にした上で、シッダールタ自身も一般的な常識としてわきまえていた、そう私は考えている。

それを具体的に言えばすなわち、
身体内部の車軸とは、背骨とそこに内在する脊髄(+脳幹)であり、車輪とは、頭がい骨とそれに内在する大脳である。
という事になる。

これが、この論考を支える二つ目の前提になる。

もちろんこの身体観は、先に触れた、静的な車軸と動的な車輪というラタ戦車の原風景、そして静的なブラフマン=プルシャと動的なプラクリティ=輪廻する現象世界という世界観と完全に対応している。

棒状の脊髄(+脳幹)は非情動性の『静かな』車軸のファンクションであり、辺縁系より上の大脳は様々な情動と共に躍動し『回転する』車輪なのだ。




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